No. 1
アメリカ合衆国カリフォルニア州滞在記
北見工業大学土木開発工学科 助教授 早川 博
1. はじめに
私は文部科学省の在外研究員として,平成14年10月から翌15年の8月までの10ヶ月間,アメリカ合衆国カリフォルニア州デービス(Davis)市のカリフォルニア大学デービス校(University of California at Davis,以下UCDと記す)に滞在しました。
第1回目はデービス市での生活の一端を報告します。
2. デービス市について
平成14年10月15日に成田を出発し,サンフランシスコ経由でカリフォルニア州の州都サクラメント空港に15日午後1時に到着しました。州都サクラメントはカリフォルニア州中央部の稲作でも有名なサクラメント・バレーと呼ばれる地域のほぼ中央に位置しています。バレーといっても日本の「谷」というイメージにはほど遠く広大な平野が広がり,東西のはるか彼方に谷の両側をなす山並みが霞んで見えるだけでした。
空港を一歩出て空を見上げると,10月だというのに空一面に眩しい青空が広がり,秋模様の北見からまた夏に逆戻りしたという感じでした。
私の留学先であるUCDがあるデービス市は空港から車で約20分のところにあり,サクラメント・バレーを南下するサクラメント川を挟んでサクラメント市の西に隣接する人口7万弱に対して学生が約2万9千人の典型的な学園都市です。サンフランシスコからは州間高速道路80号線に沿って約120kmの内陸にあり,車で1時間半くらいのところです。
サクラメント空港
デービス市役所
カリフォルニア州の西海岸は地中海性気候に属するので,11月から3月頃までが雨期になり,それ以外の期間はほとんど雨が降りません。デービス市は最低気温が0℃を下回ることはほとんどなく,夏は連日雲一つない快晴が続き,最高気温が40度を越える日も珍しくありませんでした.サンフランシスコは海に面しているので,最高気温がデービスより10度以上も低く,どちらかというと現地に来る前はサンフランシスコに近い気候と考えていたので,夏のこの暑さには参りましたが,北海道と同じく湿度が高くないので助かりました(住宅地の街路樹)。
デービスの街は高い建物がほとんど無く,街路樹などの緑が多く広々として落ち着いた雰囲気です。夏場に生活してみると,この街路樹の木陰がなければ,日中出歩くことも間々ならないことを後になって実感するのでした。デービス市では家を新築すると市から庭木が2本贈られるそうで,市としても積極的に緑豊かな街づくりを推進しているそうです。
アメリカは車社会だとは聞いていましたが,実際デービスの町には公共交通機関はバスしかなく,学生は大半が自転車かバスで通学しています。バス料金は学生が無料,一般の人でも一律75セントと大変安くなっています。私は滞在中ずっと天候に関係なく自転車で大学に通いましたが,これほど自転車が街中を行き交っている町は米国でも珍しいということです。その理由は街並みを見てすぐにわかりました。街全体が平坦で坂道はほとんどありません。更に,平屋のおしゃれなストアが建ち並ぶ街の中心部を,日本でいえば四車線分ほどの広々とした車道が通っているのですが,よく見ると歩道寄りの両端に白線で区切ったスペースが「自転車専用レーン」(写真参照)になっています。
循環バス
自転車専用レーン
この自転車専用レーンはカリフォルニア州に導入されている制度で,自転車は自動車と同じ交通規則が適用されています。車道を区切ったものや一段高くなって歩道に並んだもの,オレンジの線が目印の車道とは離れた単独の専用道もあって形はいろいろですが,とにかく自転車が走行できるスペースがきちんと設けられているので,これなら小さな子供だって安心して走ることが出来ます。中には親子の二人乗り自転車や寝そべって運転するタイプの自転車も街中で良く見かけました。日本なら車の間を縫うように,しかも轢かれないようにと気を遣うところですが,彼らはきっとそんな窮屈な思いはしたことが無いことでしょう。自転車の優先順位が自動車より高いので,信号機のない交差点ではまず,最優先の歩行者が横断し,次に自転車が通過し終わるまで自動車は交差点に進入できないことが良くあります。それでも,現地の人は辛抱強く待ってくれます。きっと日本ならクラクションの嵐?に遭遇するのではないでしょうか。
セントラルパーク
フリーマーケット(毎週土曜日)
そんな街に住んでいても遠くに出かけるには車が無いと非常に不便で,やはり車社会というのは本当でした。
街の中心街はとても小さいのですが,その他に大小のモールが点在しているので,普段の買い物には困りませんが,週末にビールやワイン,食料品をまとめ買いしようとすると自転車だけでは無理で,やっぱり車を購入してしまいました。デービス市のスーパーマーケットにも米や醤油,豆腐などの日本食品を揃えている店はあるのですが,長ねぎやほうれん草などの日本野菜や活きの良い鮮魚は手に入らないので,車を手に入れてからは隔週で隣町サクラメントの日本食スーパーに通っていました。(写真右:UCDの電気自動車の充電スタンド)
デービス市はまた,環境問題に力を入れている関係で,電気自動車の導入を積極的に促進しています。UCDのキャンパスでも種々のタイプの電気自動車が走っており,写真はUCDキャンパスでみかけた電気補給スタンドで充電している様子です。デービスの郊外には太陽電池の発電プラントもあり,5月の第2日曜日は地球環境保護イベント”Whole Earth Festival”がUCDキャンパスで開かれ,4月の“ピクニックデー”と並んで多くの市民が集まり,環境に対する市民の意識は相当高いものがありました。その一方で,家庭からのゴミはペットボトルやビン類,古紙類の分別は行われているものの,それ以外の生ゴミも不燃ゴミも一緒に埋め立てられていると聞いて,ちょっと驚かされました。
娯楽施設はダウンタウンに映画館が1軒,キャンパス内のインフォメーション・ブースやファースト・フード,書店などの福利厚生施設が集まった建物,メモリアルユニオン(通称MU)の地下1階にビリヤード場やボーリング場とゲームセンター(デービスで唯一ここだけ)があるくらいで,退屈なつまらない街だと感じている学生も多いようです。しかし,治安は大変よく,主な犯罪は自転車泥棒ぐらいで,お巡りさんは駐車違反や自転車の無灯火違反の取締りに忙しいようです。アメリカで夜に女性が一人でジョギングをしているのを見て大変驚きました。
メモリアルユニオン(UCD)
住宅地の春の日
最近はこの治安が良いことと教育環境が整っているということもあり,治安の悪い隣町,州都サクラメントから移り住んでくる人が増加しているそうです。デービスの住宅評価額がこの1年で70%も上昇した,との新聞報道もあり,上昇率だけだと全米一だそうです。アパートの家賃も毎年50から100ドルも上昇しているようで,私に入居したアパートは築20年以上も経った1ベッドルーム(居間,台所,風呂とトイレにベッドルームが1部屋)のアパートで月900ドル(約10万)と,1年前であれば2ベッドルームを借りることのできる値段でした。この住宅不足を解消すべく郊外では新興住宅地やアパートの建設が盛んに行われていますが,デービス市のマスタープランに沿って住宅開発規制区域を設定するなどして,住環境・自然環境の保全に努めているようです。
(つづく)